HOME > 生前から準備すること > 信託銀行(遺言信託)はデメリットが多い
信託銀行とは、通常の銀行業務に加えて、信託業務も行っている金融機関の事です。三井住友や三菱東京UFJ、みずほ銀行など、大手は必ず信託銀行をグループ傘下に持っています。
この信託銀行が請け負う仕事の一つに、遺言信託があります。遺言信託とは、銀行が「遺言執行者」として遺言に書かれた内容(財産分割など)に沿った手続きを代行するサービスの事です。遺言には法的効力があるため、内容通りに遺産分割・名義変更などを進める必要があります。
そのためには、故人の財産を調査して総額を算出したり、不動産や株式の名義変更など、個人で行うには手間が多いというデメリットがあります。また会社を経営していると、事業継承の専門知識がないとトラブルが多発するケースもあります。こうした各種手続きを代行する役割が遺言執行者であり、信託銀行がこれを代行するサービスを行う訳です。
遺言は法的効力があるものの、不手際があると無効になるリスクもあります(⇒遺言が無効になる事例)。また、内容に不満がある相続人が異議を申し立てた場合、中々実行されないという事もあります。そんな場合でも、遺言執行者には単独で遺言を執行する権限があるため、相続がスムーズに進められるという特徴があります。
※遺言執行者になる人は遺言で指定しておく事が出来ますし、指定されていない場合は家庭裁判所によって選任される事もあります。基本的に、遺言執行者は弁護士や行政書士、そして信託銀行など相続で利害関係のない第三者に依頼するのが望ましいとされています。
遺言信託のメリットとしては、遺言の作成に関して事前相談を受ける事が出来る、遺言の保管をしてもらえるので紛失や改ざんの心配がない、弁護士や行政書士などの個人よりも法人としての信託銀行の方が将来的な信頼性(倒産しにくい等)が高い、会社の事業継承など法律が絡んでややこしい事を手助けして貰える、などが挙げられます。
遺言信託のサービス内容
・相続や事業継承や遺言作成で専門的な相談が可能
・相続発生時に各種手続き(名義変更など)の代行ができる
・遺言の保管を安全確実に行える、など
一方で、遺言信託にはいろいろとデメリットも多いです。一つ目は、財産に関する事しか執行してもらえない点です。例えば、遺言で子供の認知についての記述があった場合でも、遺言信託ではそういった身分についての事項は対象外になっています。
他のデメリットとしては、相続でトラブルが起きている、もしくは起きそうな場合は、信託銀行が遺言執行者になるのを辞退する事もある点です。弁護士法72条では、弁護士でない者が報酬を得る目的で紛争事例を扱う事を禁じており、信託銀行はこれに抵触するのを避けるために、遺言執行者になる事を拒否する場合もあるのです。
また相続税の申告は(税の申告代行は法律で制限があるので)税理士に、別途依頼する必要が生じます。信託銀行側で税理士を紹介してくれたりもしますが、結局費用は二重に掛かる事に変わりありません。
何より遺言信託は、費用が非常に高い事が最大のデメリットです。信託銀行との契約だけで20万円〜30万円はかかりますし、遺言の保管料も毎年1万円程度取られ、遺産総額が多いほど手数料も増えます。そして遺言信託にかかる費用は、どれだけ高額であっても相続税の控除対象にならない事にも注意が必要です。
例えば三井住友信託銀行の場合「遺言信託のサポート業務」が基本手数料32万4千円〜、内容変更時には5万4千円〜、遺言執行時には108万円〜という手数料がかかります。同じく「財産整理業務」の場合、財産調査や遺産分割協議のアドバイスなども含めた「相続手続きトータルサービス」の最低手数料が108万円から、名義変更など一部に絞った「相続手続サポートサービス」でも32万4千円からとなっています(全てに消費税込み)。
三井住友だけが特別高額な訳ではなく、どの信託銀行でも手数料水準は同程度です。
信託銀行(遺言信託)のデメリットまとめ
・財産に関する遺言しか執行されない。相続税の申告はサービス外
・相続トラブルが起きた(起きそう)な場合は拒否される事もある
・費用が高額。最低でも数百万円単位かかる
上記のように、信託銀行が単独で行えない業務は多いですが、逆はありません。このように遺言信託には、デメリットのほうが多いです。十億円単位で遺産のあるような大富豪一族とか、事業継承で手続きが多数必要な会社の経営者でもない限り、利用する価値は薄いといえます。