HOME > 遺産相続と税金 > 相続税の物納〜条件とメリット
財産を相続する際は、相続税という税金がかかります。相続税の納付は、相続が発生した日から10ヶ月以内に、現金で一括で行う事が条件となっています。ですが期限内での支払いが困難な場合、支払い期限の延長や分割払いが出来る延納という方法が認められる事もあります。
もし、延納での支払いも出来ないという場合は、不動産や株式など「カネ」ではなく「モノ」で相続税を納める「物納」という方法があります。
物納は、後述するように相続財産によっては、普通にお金で納めるよりも有利な条件であるケースもあります。但し、決して万能な納税方法ではなく、幾つか注意点もあります。まず物納を行うには、以下の4つの条件を満たしている必要があります。
・延納によっても金銭で納付することが困難であること
・物納申請財産が定められた種類の財産で、申請順位に沿っていること
・申請書等を期限までに納付すること
・物納申請財産が物納適格財産であること
そして申請順位とは、物納出来る財産の優先順位の事です。
第一順位・・・・・国債・地方債・不動産・船舶・特定登録美術品など
第二順位・・・・・社債・株式・貸付信託・投資信託などの受益証券
第三順位・・・・・動産
物納する場合、優先順位の上位から順に行う事が条件となっています。例えば、第一順位の不動産(土地や建物)を所有している場合、第二順位の株式を先に物納する事は出来ません。
なお第三順位の「動産」には、自動車や家具などが相当します。しかし自動車は減価償却を加味した評価になるので古いほど評価額は下がりますし、家具などはよほど高価なブランド品でない限り認められないので、物納としてあまり充てにできません。
物納のメリットは、現金化が難しいものを納める事が出来る点です。例えば不動産〜土地やマンションなどを相続した場合、通常は売却して現金で相続税支払いに充てますが、不動産の売買は時間が掛かり、何年も買い手が付かない事も珍しくないです。ところが不動産のような流動性の低い財産でも、現金化する必要がない物納なら問題がなくなり、即時支払いに充てられます。
また、財産を現金化する際の税金や売却コストがかからない点もメリットです。通常、財産を他人に譲渡した場合には、売却益に対して税金がかかります。株式の場合だと、値上がり益の20%が税金で取られます。不動産の場合は、価格の3%+6万円が仲介手数料として不動産屋に取られます。しかし物納の場合は非課税ですし、仲介手数料もありません。ただし、財産ごとに物納許可限度額が定められています。
注意すべき点は、物納する場合の不動産評価額は市場の時価ではなく、相続税の評価額で決定される事です。土地の相続税評価額は「路線価」をベースに作成され、平均すると実勢価格よりも20〜30%低い評価です。所有している不動産の市場価格が1億円相当だったとしても、相続税評価額が7000万円ならば、物納しても7000万円分としか扱われないのです。
そして、物納には利子税がかかる事にも注意が必要です。利子は物納するまでの期間に応じてかかる利息のようなもので、年7.3%もしくは前年11月30日の日銀が定める基準割引率+4%の低い方で計算されます。
相続税の物納〜条件とメリットまとめ
・現金で相続税を納付出来ない事が認められれば、物納が行える
・物納には申請順位があり、上位のものから納める事が条件
・不動産など手数料や売却に時間が掛かるものほど、物納のメリットが大きい
・不動産の物納は相続税評価額(路線価ベース)なので、通常は実勢価格よりも低い納税額しか充てられないので注意
実は物納の認可は年々厳しくなっています。「金銭納付を困難とする理由書」が必要になり、相続人の生活費も最低限(3人家族で月19万円程度)までしか考慮されない、という厳しい現実があります。加えてマイナンバー制度の施行により、収入・税金の情報が国税庁に筒抜けになったため、物納せざるを得ない家庭事情なのか否かは、税務署に丸わかりなのです。
物納出来るかどうかを個人で判断するのは困難ですし、物納許可限度額の計算も複雑でわかりにくいので、物納する際には専門家に相談すべきです。
ただし他のページでも書きましたが、巷の税理士は相続税に強くない人間がほとんどなので(相続税法の合格者は全体の1割程度)、知識や経験があるのかしっかり見極めた上で依頼しないと、税務調査を喰らうなど面倒な事態になりかねないので、注意が必要です。
そして物納には、生前からの準備も重要です。詳しい専門家なら「相続財産を整理し、不動産の物納以外では納税できない状況を作り上げる」などの荒技で節税する事も可能ですが、そのためには被相続人が生きているうちから対策を講じる必要があるからです。